【一般小説感想】傲慢と善良-辻村深月

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【一般小説感想】傲慢と善良-辻村深月

目次

あらすじ

婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。《解説・朝井リョウ》

https://www.cmoa.jp/title/1101363132/

作品データ

作者:辻村深月

出版社:朝日新聞出版

初版年月:2022年9月

ネタバレなし感想

 とても面白かったです。本自体は分厚く文字数も多いのですが、スラスラとあっという間に読んでしまいました。

 最初に「傲慢と善良」というタイトルを見た時、人生の本質のようなものにスポットを当てた作品なのかな? となんとなく思っていたのですが、読んでみたら二人の男女の結婚・恋愛の世界の話でびっくりしました。どうやらイギリスの「高慢と偏見」という小説を意識したタイトルのようですね。しかし、とにかくビシビジとめちゃくちゃ刺さってくるので、気負わずとも覚悟して読んだ方が良いのではないかと思いました。

 田舎の独特の価値観とか、結婚というものに対する価値観とか、自分の中にある傲慢さを引きずり出されている感覚がずっとあって、読んでいて苦しくなる場面が多々ありました……。婚活まっただ中の方には特に苦しく思うものがあるのではないかと思いました。でも婚活中の方にこそ読んでほしいというおすすめの作品でもあります。いろいろなヒントがあるので、私はもっと若い時(できれば学生時代)に読んでいればよかったな~って思いました。逆に、若くして読んだ方をうらやましく思います。
 
 キャッチコピーが「人生で一番刺さった小説」ということで、とにかく刺さる刺さる刺さりまくる……。途中で「うっ……」となることは多々ありつつも、でも最後まで絶対読んでほしいと思います。読み終わったらちゃんと笑顔になれました。

ネタバレあり感想

 最後まで読んだ感想としては、「架、いい奴すぎるだろ……!!」と、こちらに尽きました。小説の中でも何度も書かれているとおり真実は世間知らずのお嬢様で、読んでいて「オイオイ」となることが多々あったのですが、その度に架に救われてしまった……。

 黙って東北に行ってしまった(しかも数か月も音信不通で)婚約者に会いに行くのに「お世話になった人がいるんじゃないか」と手土産を持ってきた架に、ちょっと恐怖を覚えてしまいました。あまりにもいい奴すぎる。婚活市場に残っていたのが奇跡のような男なので、確かに架の女友達が真実に嫌味の一つでも言いたくなった気持ちもちょっと分かるかもしれない(実際に言いまくったこと自体は絶対肯定しませんが。最低だったので)

 それにしても、この作品の一番始めに「ストーカーから逃げる真実」が真実視点で書かれていたので、私もすっかり騙されてしまいました。ちょっと裏切られた気持ちになってしまった。でも、真実が嘘をついたのはこのストーカーの件だけですよね? 私はそう解釈したのですが、どうなのでしょう。

 架の友達の家で「手伝いをした方がいいのか」とソワソワしていたりする真実の「いい子さ」は演技じゃなかったですよね。だから、真実がストーカーの嘘をついたり突然消えたりしても架は真実を突き放さなかったのだと思うと、愛ってすげぇや……という気持ちになります。架が好きだった真実の本質というものが、架にとってあまりにも綺麗だったのだろうな~と。

 そして真実の対比としての美奈子たちの醜悪さよ……。真実の悪口を嬉しそうに喋る彼女たちのシーンは読んでいて辛かったです。なんだか本を持つ手が冷たくなって、体が固まるのを感じました。架空の人物なのに「こういう人っているよな」感がすごかったです。人の悪意とは……って、つい考えてしまった。

 そして、群馬にいる真実の両親の「こういう人いるよな感」。私も田舎出身なのでこういう狭いコミュニティの中での価値観みたいなものはとてもよく分かってしまう。真実とお見合いをした二人の男性の垢抜けない感じとか、街の大きなショッピングモールの存在の大きさとか、もう……めちゃくちゃ分かってしまう~~私の環境と同じやコレ~~!! と。でも、架はこのショッピングモールのエスカレーターで真実を本当に好きな自分に気づいたわけなので、見にきてくれて本当に良かったと思いました。一歩間違えたら「こんな田舎者願い下げだ」となってしまいそうなところだと思いましたので……架の善良さに私も救われてしまいました。

 架の善良さと言えば、群馬の結婚相談所の小野里さんとのやり取りも刺さりましたね……。架がいちいち受け止めて反芻するものだから私もついいろいろ考えてしまった。「ピンとこない」感覚の正体とか、自分の価値への高慢さとか、だからなかな結婚できない、とか、ウッッ……と。まあその通りですよね。でも、真実の言っていた「この人にキスしたいと思わないから断る」も大正解なんですよね。

 だって、確かにハードルを下げれば結婚はできます。でも、結婚がゴールではなくてそこからどんどん道は続いていくわけなので、真実の感覚って本当に本当に大事だと思うのです。だからあとは、そのあたりのバランスの問題なんですよね。。小野里さんの言ったとおり、将来に明確なビジョンがあったりすれば(アユや金居の奥さんみたいに)また違うと思うのですが、一度「無理」と思った相手とは結婚なんてするもんじゃないですよ……。だから真実と架はそこまで誰とも結婚せず、出会って良かったなと思います。

 第二部で真実の行方が分かった時、「金居のボランティアの話がここにつながるんだ……」と、奇妙な縁というものを思いました。架と金居が食事をした時のボランティアの話の時に、私は金居の人間としての包容力とか大きさに感じ入っていたのですが、真実が金居から話を聞いた時もそうだったのかもしれないなと。

 ボランティアの中で出会った男性にデートに真実が誘われた時、一瞬そっちに行ってしまうんじゃないかと思ってどきっとしたのですが、真実がちゃんと断ってくれてとても嬉しかったです。そして神社のおばあちゃんの言っていた「大恋愛」の言葉で、まさに「それだ!!」って思いました。確かに婚活で出会った二人だけど、大恋愛。腑に落ちたというか、しっくりきたというか。結婚した架と真実が、将来「あんなこともあったね」って笑い合ってる場面が浮かんだんですよね。ああ、大恋愛。この令和の時代に聞くとなんだか新鮮。めちゃくちゃいい響きだ!!

 でも架が真実を迎えに来て、再びプロポーズされた真実が「結婚式場をキャンセルしてほしい」と言った時、一回本を閉じてしまいました。「ちょっと考えさせて……」と思いながら本を閉じて、天井を見上げて、「真実と架が結婚しないなんてことある……?」ってちょっと考えてから、ようやくオチの予想がついて「ああ!!」ってなってからまた本を開きました。(笑)

まとめ

 最後は予想通りになってくれたのですが、この二人にはハラハラさせられたなぁ……としみじみしてしまいました。でも終わりよければすべてよしのハッピーエンドで笑顔になりました。結婚っていいなあ!! と、友達の結婚式に出席したときのあの幸せな気持ちを思い出しました。友達の結婚式ってなんであんなに泣けるのでしょう。真実と架にも幸せになってほしいですね……。そして美奈子たちとはフェードアウトしてほしいです。とても面白かったです。

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傲慢と善良

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